最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)1431号 判決 1967年4月18日
上告人(被告・控訴人) 一戸長造
右訴訟代理人弁護士 五十嵐芳男
被上告人(原告・被控訴人) 有限会社藤田商事
右訴訟代理人弁護士 内野房吉
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人五十嵐芳男の上告理由第一点について
論旨は、原審には競落物件の所有権移転の時期に関して競売法二条一項の解釈適用を誤った違法があるという。しかし、競売法による競売手続においては、競落許可決定が確定しても競売手続の完了(競落代金の支払)前に債務が消滅した場合には競落人は代金支払により所有権を取得しえないと解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(昭和三七年(オ)第一一二号同年八月二八日第三小法廷判決・民集一六巻八号一七九九頁参照)。したがって、原判決に所論の違法はないから、論旨は採用し得ない。
同第二点について
論旨は、滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律第六条、一七条は、競売法による競売手続がされている不動産に対して滞納処分がされた場合にも準用すべきであり、原審確定の事実関係によれば、競落代金中から滞納税金相当額が徴収職員に交付されたというのであるから、上告人は滞納処分による公売不動産の買受人として本件不動産の所有権を取得したものと解すべきであるのに、原審が上告人の所有権取得を否定したのは、右法条の解釈適用を誤ったものであるという。しかし、原審の確定したところによれば上告人の競落代金支払に先立って訴外関が抵当債務を全額弁済することによって抵当権が消滅するにいたったというのであるから、右抵当権に基づく本件競売手続は当初に遡って無効に帰したものというべく、したがって、滞納処分は差押のされた当初の状態からその手続を進めるべきこととなったのであり、上告人の支払った競落代金が原判示のように徴収職員に交付された事実があるからといって、これにより公売による買受代金納付の効果を生ずるものではなく、上告人もまた公売処分によって本件不動産の所有権を取得したものというを得ないことは明らかなところである。論旨は、これと異なる独自の見解に立って、原判決を非難するに帰するものであって、採用し得ない。<以下省略>
(裁判長裁判官 横田正俊 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄)
上告代理人五十嵐芳男の上告理由<省略>